インタビュー

Interview05

  • HIRONORI TAKAMITSU

    成光精密(株)代表取締役 Garage Minato運営責任者

Garege Minato:概要

成光精密株式会社は、大阪市港区に工場を有するいわゆる「町工場」だ。その町工場の2階に、スタートアップ向けにインキュベーション施設“Garage Minato”が誕生した。スタートアップファクトリー構築事業の採択事業者として、スタートアップ支援拠点の構築を進める高満代表に、話を伺った。

アイデアと町工場をつなぐ
プラットフォーム

私がGarage Minatoを起ち上げた背景には、大きく2つの要因があります。まず1つ目が、町工場やさまざまなサービス事業者が多いという大阪市港区の特性を活かしたモノづくりの仕組みを創出したいと思ったことです。きっかけは、日本におけるプロダクトやサービスの社会実装スピードが非常に遅いと気付いたことでした。シンガポールに視察に行って驚いたのですが、あちらは「40点の完成度でも市場に出す」という感じなのです。すぐにつくって、すぐに使ってもらい、その反響をもとに改善していくというスタイルなんですね。100点満点になるまで市場に出さない日本とは、圧倒的にスピード感が違うのです。これをヒントに考えたのが、アイデアのあるスタートアップや研究者と、それを形にできる町工場をマッチングさせ、さらにはプロダクトを港区内の各サービス事業者に使ってみてもらいながら実証するという仕組みです。

要因の2つ目が、製造業の減少傾向に歯止めをかけ、モノづくりを活性化させたいという想いです。平成元年から平成26年にかけての製造業従事者数は、全国では20%減少しています。昔から多くの町工場が集積していた大阪市港区ではこの傾向がより顕著で、46%も減少しているのです。せっかく優れた熟練工が多数いるのに、このままでは世界に誇れるような技術が次世代に引き継がれることなく消滅しかねません。この問題を解決するには、従来型の下請け構造からの脱却が不可欠です。成熟社会においては、大手メーカーからの発注頼みという受け身の姿勢では展望が拓けません。また、これまでは大手メーカーの購買部門が各町工場の専門性に応じて仕事を振り分けて発注してきたため、町工場同士のネットワークが希薄でした。自社の範疇外のオファーを受けるようなことがあっても、単に「ウチではできません」で話が終わってしまっていたのです。そこで考えたのが、お互いの専門性を十分理解し合った複数の町工場と、アイデアはあるもののどうやって形にすればいいのか分からないというスタートアップや研究者とをすべて円で結び、フラットな関係で一緒に協議できる場をつくることです。

こうして2018年4月20日、アイデアのある企業や人と町工場を結び付け、実証の場も提供できるプラットフォームとしてGarage Minatoが誕生しました。場所は私ども成光精密の工場の2階になります。4つのインキュベーションスペースと広いオープンイノベーションスペース、コワーキングスペース兼プリントスペースを配置。「世界のものづくりの課題を解決する」をビジョンに、他社と連携しながら誰もが自分ごととして一緒に物事を考えていくような場にすることで、可能性を広げていきたいと思っています。

  • 1階工場部分

  • 2階オープンスペース

地域の町工場との連携、
地域を越えた「スーパーファクトリーグループ」との連携

町工場というのは、各分野に特化して高度な専門性を有しているものです。スタートアップのアイデアを形にするためには、複数の工場で協力しなければならないケースのほうが多いと言えます。そこでGarage Minatoでは、大阪市が認定した優秀な技能者「大阪テクノマスター」と連携させてもらっています。2017年時点で、設計開発・デザインや電気メッキ、プレス金型製造など、9名が認定されていますが、各分野におけるスペシャリストと連携することで「Garage Minatoに相談すれば、ものづくりに関する悩みはすべて解決する」という体制をつくり上げていきたいと思っています。さらに、大阪商工会議所さんと共に町工場同士のネットワークづくりにも注力しているところです。

また、私自身が町工場の人間なので、研究者とのつながりや、アイデアをビジネスとして成立させる専門ノウハウがありません。そこで、研究者とのネットワーク確保のために(株)リバネスさんと、事業化支援については(株)グローカリンクさんと連携することで、スタートアップのアイデアを形にしていこうと考えています。

そもそも、Garage Minatoは、東京都墨田区の浜野製作所さんが運営するGarage Sumidaからのれん分けさせていただく形で設立しました。ほかにGarage TaishoとGarage Tochigiがありますが、それぞれ得意分野が異なります。前述のリバネスさんの取り纏めにより「スーパーファクトリーグループ」として地域を超えて連携し、自身のGarageに相談に来た方でも、ご要望に最もフィットするGarageを紹介することになっています。今後も日本各地に「Garage ●●●」を増やし、世界中から来るスタートアップや研究者に対応できるようにしていきたいと思っています。

「アイデアをすぐカタチに」を実践

Garage Minatoでは、スタートアップや地域の企業に向けたセミナーを開催しています。先に触れた大阪テクノマスターがモノづくりに対するこだわりやキャリアメイクについて語る第一部、金属や金属加工に関して学問的な側面から専門家がレクチャーする第二部、スタートアップが自身のアイデアを披露する第三部で構成していて、全9回を予定しています。既に、2018年5月に開催した第1回から、面白い事例が出ているのでご紹介したいと思います。

第1回のスタートアップのピッチでは、港区にスポーツ機械のメーカーを起ち上げたいという方にお話しいただきましたが、そのすぐ後に、少年野球チームの代表から、指導者として求めている練習器機の開発リクエストをいただきました。その場ですぐに打撃ティースタンドを開発することになり、参加を呼び掛けたところ、7社が手を挙げてくださり、開発チームを発足しました。翌月にこのチームでミーティングを実施し、試作品を制作。従来型の、下からボールを支えるティースタンドではホームランバッターが育たないという話を受け、チューブを使って真空状態をつくり、ボールを上から保持するタイプを試作しました。これをすぐに野球チームの選手に使ってもらって問題を顕在化させ、改善。現時点でバージョン5まで進化しています。

2019年1月までには完成させて野球チームに進呈することを目指していますが、もちろんボランティアで終わらせるわけではありません。一連の経験を通じて、特許取得や販売後に必要となるアフターサービスのあり方なども習得し、メーカーとしての機能を強化してく所存です。まさに、アイデアをすぐに形にして実証し、改善を加えていくという、当初の事業イメージを実践できているわけです。

Garage Minatoをハブとして、町工場とスタートアップが共に成長

Garage Minatoでは、今後、4つの新たな取り組みを実現させていきたいと考えています。1つ目は、スタートアップ含めた次世代を担う若手の育成として、技能検定の講習会の開催です。2つ目は、私たちのネットワークに参画してくださる町工場の仮想工場化。各工場が所有している工作機械の空き状況をリアルタイムで捕捉できるようにすることで、クラウドシェアリングを実現させたいと思っています。3つ目が、技術者とクリエイターの商品開発です。大阪にはクリエイターも多くいらっしゃるので、技術者と一体になって商品をつくりだすような体制を整備したいと考えています。そして4つ目が、講師を招聘したうえでの財務勉強会の実施です。原価管理や管理会計など、町工場の経営者や幹部が数字に強くなることで、現実味のある夢を追える町工場を増やしていきたいと思っています。また、その結果として、当社や地域の町工場が、スタートアップと共に成長していくことに繋がると思っています。