インタビュー

Interview03

「大胆にチャレンジしていきたいですね。
私も含め支援する側も、ワクワクできたほうが
前のめりになれますから。」

  • JUNICHI FUJIOKA

    (株)ジェネシスホールディングス 代表取締役

ハードウェア・スタートアップ支援を
事業にしている背景

IoTが加速度的に進化・普及している昨今では、業種を問わず、自社サービスを展開していくうえで、ハードウェアも取り扱う必要性が生じるケースが増えています。一方で、ベンチャー企業やIT企業の多くは、モノづくりに関するネットワークや専門部署がありません。弊社では、こうした非製造業のお客様を対象に、深センの自社工場を活用した量産はもちろん、ハードウェアを動かすためのソフトウェア開発や法的な認証関係、販売後のアフターサポートなども含め、モノづくりに関わるサービスをワンストップで提供しています。

これからのプロダクトというのは、スタートアップやIT業界の人など、サービスのアイデアを持っている人が考える時代だと思っています。また、私自身、ハードウェア・スタートアップとして苦労した経験がありますので、同じような苦労で断念するようなケースをなくし、アイデア実現を支えたいという想いがあります。

ある意味で下がっている
モノづくりへの参入障壁

私が起業したころのハードウェアは、インターネットに頼れないため、メモリやCPUなどを搭載し、1台で完結させる必要がありました。しかし今は、ストレージでもコンピューティングでもクラウドを活用できるので、ハードウェア自体にはさほど高機能な部品は必要ありません。つまり、製造コストを抑えやすい条件が整っているといえます。

また、生産プロセスも、大きな工場を持った企業が開発・生産・販売のすべてを担う垂直統合モデルではなくなってきています。先述のとおり、インターネットを通じてデバイスをコントロールできるようになった今の時代は、ハードウェアに求められる機能の多くは簡素化・共通化できます。例えば、スマートフォンやタブレット、ネットワークカメラなどのIT製品には、ブランドを問わず、中身には同じ部品が使われていることが多いのです。弊社では、自社工場を中国の深センに置いていますが、その理由は、深セン一帯で特有のエコシステムができあがっているからです。サプライチェーンを構成する部品メーカー各社が、みんなで互換品を作り合っていて、共通化を図った基板やそれを収めるケースなどが、すぐに揃えられるのです。こうした共通部品を使うことで開発期間を大幅に短縮できますし、そのぶん、競合他社とどう差別化するのかに集中することもできます。「小ロットで生産したい」「初期投資を抑えたい」「短納期でデバイスを用立てたい」といった顧客ニーズにマッチしているわけです。

こうした点を考えれば、今の時代は、ひと昔前と比べてずいぶんモノづくりに参入しやすくなっているといえるのです。

何が量産化の障壁になるのか

基本的には、ハードウェア・スタートアップにとって有利な追い風が吹いているわけですが、その一方で、思わぬ落とし穴もあります。それが試作品開発を経て量産化に移行する際の障壁です。

日本で試作品をつくり海外の工場で量産化する場合、試作品をつくる段階で日本製の電子部品を使っていると、海外で同様の部品を調達できるとは限りません。仮に現地で調達可能な代替品を見つけたとしても、海外部品のクオリティにはバラツキがあることも多く、量産品に採用するにはふさわしくないことも考えられます。例えば、10個生産して数個の動作不良品が出てしまうような精度の低さだった場合、それが設計の不備によるものなのか、部品が原因なのかを究明するのに余計な時間がかかってしまうのです。だからといって日本から部品を持ち込むのでは、今度は余計なコストがかかってしまいます。また、こうした問題は、アイデアの実現を阻む要因にもなり得ます。試作品の制作自体はあくまで日本でしっかりやるべきだと考えますが、試作品をつくった後は、具体的な量産体制を想定する量産設計や量産試作というプロセスも必要になるわけです。そして、量産設計や量産試作というのは、基本的に作り手側が担うべきものですから、どの工場に声をかければいいかも分からないスタートアップにとっては、高いハードルになります。

また、先ほど深センでは小ロット生産を実現させやすいと説明しましたが、それでも工場からすれば、ロットが多いに越したことはありません。取引実績がない状態で小ロット生産を依頼しても、断られてしまうことが少なくないのです。弊社の場合は、複数案件をセットにして発注したり、既に信頼関係を築けているメーカーに頼み込むといった形で対処していますが、ネットワークがない人にとっては、やはり障壁になるでしょう。

量産化の壁は、事前に認知できていれば回避できるものや、製造事業者の理解やアドバイスがあれば乗り越えられるものばかりですが、半面、量産化に通じている人との接点がないスタートアップにとっては、大きな障壁となってしまいがちなのです。この点で、スタートアップファクトリー構築支援事業の意義は大きいと思いますね。

スタートアップを支援する側が
担うべき役割

最初の1個を作る部分と、1個を100個にするような部分の支援は、国内企業が担えると思います。、例えばプロトタイプを作るための施設や設備を提供する事業者や、町工場が、量産試作の手前くらい迄は支援するといった形です。そして、100個を1000個や2000個にするような部分は、条件に合う工場が日本に見つかればそれでいいですし、見つからない場合はここからが中国深センの出番であり、弊社もお手伝いができます。

スタートアップ絡みの案件では、最初からビジネスとして捉えるのが難しい部分も多いものです。支援する側には、大きく温かい心で対応していくことが求められると思いますね。経済産業省も含め、支援する側が役割分担し、それぞれが自分の領域で責任を持って次につなげるという連携も必要でしょう。支援する側が自分たちなりのエコシステムを作っていくことが重要だと思いますね。

スタートアップに求めたいもの

ひと昔前は、起業といったら脱サラを伴うなど、後戻りはできませんでしたから、人生を賭けるくらいの大きな覚悟が必要でした。しかし今は、会社に勤めながらでも、ソフトウェアを作ってデバイスを動かしてみるというチャレンジが気軽にできますし、見本市に出展してスポンサーを募ったり、クラウドファウンディングにかけたりと、資金調達の手段も複数あります。かつ、さまざまなサポート体制も整ってきているわけですから、ぜひ多くの方に挑戦していただきたいですね。

また、私自身は、中国のスタートアップと接する機会も多いのですが、彼らは最初からワールドワイドに市場を捉えている点が凄いなと思います。「世界のこの部分を、全部自分たちのサービスに置き換える!」くらいの大きな野望を抱いているんですよ。一方、日本のスタートアップは「これがあったら、ちょっと便利になるよね」といったニッチなところを狙っているケースが多い気がします。ここまで触れてきたように、今は、短納期・ローコストで気軽にサービスや製品を作りだすことができるわけですから、大胆にチャレンジしていただきたいですね。私も含め支援する側も、ワクワクできたほうが前のめりになれますから。

また、相談にきたスタートアップによくするアドバイスですが、今の時代はサービスが主体で、プロダクトはサービスを実現させるためのツールに過ぎません。しかし、スタートアップの方は、開発過程で過度にプロダクトにこだわってしまう傾向にあります。こうなると、いたずらにお金と時間がかかってしまい、せっかく優れたアイデアがあっても実現に至りません。自分が考えたサービスを世の中に提供することを最優先してください。

ものづくりに触れて、
血の通ったモノを世に出して欲しい

今起業しようとする人たちというのは若い世代の人が多いせいか、工場を見たことがないという人もいます。ですので、深センの弊社の工場に相談に来られた方は、ものづくりの現場を分かってもらうために、工場で手を動かしてもらったりしています。「こんなに人がいると思わなかった」などと言われることが多いですね。単に500個1000個の量産でも「これだけの人が手を動かさないとモノってできないんですよ」ってことは分かってもらわないと。スタートアップの仕事はそれほど採算的にいい案件ではないので、スタートアップも工場と同じ目線で考えて、モノに血を通わせて世の中に出してほしいですね。