インタビュー

Interview02

  • TAKASHI KONO

    経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐(総括)

この事業を創設した背景

経済産業省では、我が国産業が目指すべき方向性として、さまざまな企業や人をデータを介してをつなげて新たな付加価値や製品、サービスを創出していくという「Connected Industries」を提唱しています。Startup Factory構築事業も、大きくはこの方針に基づいた補助事業です。

かつてのモノづくりは、数ある産業分野のひとつでした。しかし昨今では、医療系や農業系など、さまざまな分野でモノづくりのニーズが出てきています。一方で、現在の日本には、新たにモノづくりにチャレンジできる環境や支援者が不足しています。私たちは、この事業を通じて主に2つのコネクトを実現させ、事態を打開したいと考えています。

ひとつは、ハードとソフトのコネクト。例えば、IoTが急速に進展するなか、ソフトウェアベンチャーでも、モノづくりにトライしたいという機運が高まっています。複雑で高度なモノづくりの知見・ノウハウがない人に、必要な環境や専門家を提供することで、優れた着想の製品化をサポートすることが重要と考えています。

もうひとつは、ベンチャー企業と大企業、あるいはアイデアがある人と町工場の職人とのコネクトです。大企業や町工場には多種多様なモノづくりのノウハウが蓄積しています。アイデアはあるがリソースがないという人たちとうまくマッチングすることが大事だと思っています。

この事業が想定している補助事業者の類型について

本事業では、この2つのコネクトを実現するプレーヤーを、”スタートアップファクトリー”として支援するのですが、そのプレーヤーは大きく4つの類型を想定しています。ひとつは、モノづくりに関するノウハウや設備を有している大企業に、優れたリソースを提供してもらうというパターンです。2つ目は、大田区や東大阪などに代表される工場集積エリアの町工場ネットワークによる支援。各工場が連携することで補完し合い、モノづくりを実現させるというパターンですね。この中には、バーチャルな場でアイデアを募り、優れた案にみんなが出資するクラウドファウンディングのような機能を有するものも含まれると思います。3つ目が、最近都市部に登場しはじめていますが、生産設備を擁し、各専門分野のアドバイザーが集まってくるファブラボ等のワークプレイスによる支援です。4つ目が、グローバルに通用する量産試作設計事業者です。今のモノづくりはグローバルでの調達が当たり前になっており、試作設計の領域でも「アルミならこの会社」とか「電気部品ならこの会社」と、グローバルで選ばれる競争力がある事例がいくつか出てきています。こういったプレーヤーが、ベンチャーにも門戸を広く開放しつつ海外のニーズをどれだけ取り込めるかという観点も大事だと思っています。

これらの4つの類型に共通していますが、仕組みを活用する側もモノづくりを支援する側も、持続的なビジネスとして回り続けるようにすることをゴールとしてイメージしています。したがって政府の関与は最初の立ち上げ時のみが妥当と考えております。また、国内だけで閉じていては成長を見込めませんから、世界中のベンチャーもターゲットにできるようにしていきたいですね。いずれは、国内の優秀なベンチャーの海外進出サポートなども実現させたいと思っています。

いずれにしても、この事業を通じて成功モデルを世に送り出し、それを広く発信することで「自分もやってみよう!」と思ってくださる方を増やしていきたいですね。いわゆる「モノづくりの民主化」です。

プレーヤーへのメッセージ

まずスタートアップに対してですが、近年は中国に押され気味という側面があるものの、日本にはまだまだモノづくりの底力が備わっています。政府としては、その底力を活用できるような環境を整えたいと考えていますので、ぜひうまく利用していただきたいですね。これまでのベンチャー支援策というと、分野としてはWEBサービスなどソフトウェア系の事業者を対象にしたものが先行していました。こんな事情もあって、モノづくりに関するアイデアがあってもうまくビジネスにできなかったという方や、どこに相談していいのかすら分からずに悶々とし続けているという方が少なくないのではと思っています。そういう方々にも、ぜひこの事業を利用していただきたいですね。

次に、大企業に対して。培ってきた自社ブランドの信頼性を大切にするあまり、過度に品質にこだわってしまい、スピーディに製品を開発できなかったり、コストや販売価格が高くなったりという弊害が少なくないと聞いています。単にベンチャーを支援するというだけでなく、ベンチャーの看板を借りることで、自社ではうまく実現できなかった新たなチャレンジが可能になるというメリットもあると思います。また、経営上、オープンイノベーションが必要と分かっていても、なかなか本腰を入れた形で採り入れられていない企業が多いように感じます。新しい技術や考え方を製品に反映させていくうえで、ベンチャーの若いエネルギーを大企業側のトップが進んで採り入れていけば、中長期的な競争力強化につながると思います。

そして、町工場の方々に対して。デジタル化やグローバル化など、世の中の変化にさらされ、世界で通用するような優れた技術やノウハウを有しているのに、今後の事業の見通しが不透明というところも多いのではないでしょうか。この事業への参画を機に、例えばベンチャーとの接触を増やしてみるなど、新領域にトライしていただきたいと考えています。また、まわりの町工場にも声をかけ、お互いに自社の強み弱みを理解したうえでうまく連携しあっていただくようなネットワークが生まれていくことも期待しています。

なお、仕組みを理解していただきやすいという理由でハードウェア・スタートアップを例に挙げていますが、食品や素材なども含め、プロダクトの量産化において「壁」がある分野は、基本的には対象としたいと考えております。

この事業によって、ベンチャーはモノづくりが分かり、大企業はイノベーションを実現させ、町工場は再び活性化する。こうした大きな絵を実現していくにあたり、その中心となるプレーヤーは、これまでの意見交換や先行事例などに基づくと、「モノづくりで日本をもう一回立ち上がらせる!」という強烈な熱意を持った人であることが必要と感じています。そういう意味で、ベンチャーも大企業もなく、ソフトもハードもなく、わけへだてなくさまざまな人たちとコミュニケーションをとりながら周囲を牽引していけるような人に、ぜひ本事業を活用いただきたいですね。

今後の展開について

私見ですが、これまでのスタートアップ政策で、起業支援による起業家の増加には一定の成果を上げられたと思っています。これからは、立ち上がってきたスタートアップがユニコーンに成長していけるような支援が大事になってくると思っています。しかし、スタートアップが単独で大きくなるのは非常に困難です。カギは、特に日本にとっては大企業との連携と考えています。その大きな方向性が、2017年12月に経済政策パッケージとして発表した「Startup Japan(仮)」です。これは、優れたスタートアップをコミュニティが選んで「えこひいき」的に徹底支援するというものです。なおこの事業は、この全体像の一環として、ベンチャー企業により創造的な活動を展開していただくための場の提供、という位置づけで整理しております。

まずは、この事業に基づく成功事例を積み上げ、世の中の動きや産業界のニーズなども引き続きアセスしながら、更なる施策を検討していきたいと思っています。

※「Startup Japan(仮)」は、2018.06.12「J-Startup」として正式にローンチ

J-Startup
https://www.j-startup.go.jp/