インタビュー

Interview01

  • YOSUKE KITA

    三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱ 政策研究事業本部
    経済政策部 研究員

スタートアップの現状と動向

ここ数年で、スタートアップの活動やそれを支援する動きが、急激に活発化していることを感じています。ベンチャーキャピタル等によるスタートアップ向けの投資額は年々増加していますし、大企業もスタートアップに熱視線を送り、官公庁でもどんどんスタートアップ向けの支援施策を充実させています。

過去にも、スタートアップが注目され盛り上がるタイミングは幾度かありましたが、これまでと大きく違う点の一つは、自社でいわゆる「ハードウェア」を手がけるスタートアップが登場してきているという点です。

従来、スタートアップと言えばITの領域で事業を行う主体がほとんどで、自社でハードウェアを作ろうなどというスタートアップはほとんどいませんでした。それは、スタートアップにとって、モノづくりのハードルが極めて高かったためです。

ところが、ここ3〜4年で状況は大きく変わってきています。デジタル工作機械の普及に代表されるように、製品開発にかかるコストは劇的に低下し、また、IoTに関する技術の発展によりハードウェアの用途が広がって新しい市場が生まれています。それに伴って、ハードウェアを手がけるスタートアップのチャンスも拡大してきていると感じています。

スタートアップにとっての
「量産化の壁」とは

モノづくりのハードルが下がったことで、スタートアップのようにごく小規模な組織や個人であっても、製品のプロトタイプ(原理試作・機能試作)までは作り上げることができるようになってきています。

しかし当然ながら、プロトタイプをそのまま市場に出すことはできません。製品を市場に送り出して、それを事業としていくためには、同じものを100個、1000個、1万個と作る必要があります。つまり、「量産」という工程が必要で、これがIT系のスタートアップと根本的に異なるところです。

そして、「量産化」には、プロトタイプを作るのとは全く異なる技術やノウハウ、ネットワークが必要で、しかも、ほとんどのスタートアップは、この量産化に必要な資源を持ち合わせていません。

例えば、IoTデバイスを開発するスタートアップが量産化にたどり着くためには、最終製品に求める品質・コスト・スケジュールを見定めたうえで、最適な部品や材料を選び、基板を作り、専用部品は加工を外注し、金型を作り、組み立てて試験を行い、評価をし、必要があれば何度でも設計からやり直し、販売先の国の規制に併せて認証を取得し、といった、気の遠くなるような多くの工程を踏む必要があります。

大手メーカー等であれば、これらがしっかりとノウハウとして蓄積されているので、スムーズにこなすこともできますが、スタートアップにはこのノウハウが絶対的に不足しています。

そのために工程の手戻りが多く、当初の想定よりもコストが跳ね上がり、売上が立てられない期間が長引いて資金が枯渇していく。それが「量産化」の難しさであり、大きな壁になるのです。

「量産化の壁」を超えるために
必要な支援とは

結局、スタートアップが量産化の壁を超えるためには、量産化のノウハウを持った主体からの支援を得ることが近道だと考えられます。つまり、量産化までの長い工程を、スタートアップの代わりに引き受けたり、伴走しながらノウハウを伝えるような主体が重要です。

では、誰がその支援を行えるのかというと、それはいわゆる製造業のプレーヤーだということになります。

最終製品のメーカーであれば、社内に量産化のノウハウは必ずあります。また、部品やモジュールを手がける企業の中にも、自社の事業領域を拡大して、最終製品の開発や量産化のノウハウを獲得している企業が増加していて、これらの企業がスタートアップの良きパートナーになるということもあるでしょう。他にも、量産化の経験が豊富な人材が、プロダクト・マネジメントの専門家としてスタートアップの支援に入るという方向性もあり得ます。

製造業側にとっても、スタートアップの支援を行うことで、自社のオープンイノベーションに繋げられるなど、メリットは大きく、WIN-WINな関係を築くことができると考えています。

中国の深圳に代表される海外EMS
(受託生産サービス)
の活用によって
「量産化の壁」は
解決できないのか

もちろん、海外EMS等を活用することで量産化の壁を超えることはできると思いますし、スタートアップは日本にこだわらず、それぞれが選んだ最適な場所で試作や量産を行うべきだと考えています。実際に多くのハードウェア・スタートアップは海外で試作や量産を行っていて、上手くいっているケースも少なくありません。

ただし、全ての製品が海外での試作や量産に適しているかというと、そうではないようです。

例えば、中国の深圳は電子機器産業を中心とした製造業のエコシステムがあり、そこに流通している部品を使うのであれば世界のどこよりも早く・安く量産化にたどり着くことが可能です。一方で、それ以外の部品を輸入して使ったり、専用部品を設計・製造したり、という場合は途端にコストが高くなり、トータルで考えるとむしろ高くつく、ということもあるようです。

結局のところ、製造業とひとくちに言ってもその実態は多様なので、海外での生産に向いた製品もあれば、日本での生産に適した製品もある、ということでしょう。

産業政策的な観点では、「日本での生産に適した製品」に関しては、できるだけ日本で作りやすいような環境を作っていくことが重要で、今回のスタートアップ・ファクトリー構築事業は、その意味でとてもインパクトのある施策だと思っています。

これによって、日本のスタートアップが成長しやすくなるとともに、海外からもスタートアップが集まるきっかけとなり、さらにはそれによって日本の産業全体の活性化に繋がるのではないかと期待しています。

国内大手メーカー等がスタートアップ
を支援するメリットとは

大手メーカー等にとって、スタートアップの量産化を支援する最大のメリットは、それによって有望なスタートアップを引きつけることができる、ということでしょう。

大手メーカーの多くは、革新的な技術やアイデアを有するスタートアップとの「オープンイノベーション」に高い関心を持っています。一方で、「自前主義」の時代が長かった日本の大手メーカーにとって、こうした取り組みは不慣れで、スタートアップとの接点を持つところから苦労しているというケースも見られます。

その点で、量産化支援という、自社が得意とする領域においてスタートアップを支援し、そこを起点により深い連携に繋げていくという方法は、オープンイノベーションを重視する大手メーカーにとって有効なはずです。

スタートアップが抱える課題は、「量産化の壁」意外にもたくさんあり、本来は大手メーカー等がそれらの課題解決においても重要な役割を果たすはずです。量産化の支援をきっかけに、スタートアップと大手メーカー等がより深く結びつき、世界の市場で勝てる事業を作っていく。こうした未来が、遠くない将来訪れると信じています。