事例紹介

Seismic

Company profile企業概要

製品・サービス概要

Seismic

アパレルとロボティクスを融合した、新しいタイプのアクティブウェアであるパワード・クロージングを開発。
既存の外骨格型アシストスーツでは対応できないような、デザイン自由度の最大化を実現。
人々のライフスタイルに調和し、あらゆる年齢のあらゆる生活シーンに利用される、アパレル製品としての普及を目指している。

ビジネスモデル

ビジネスモデル

ハードウェアの役割/機能

ハードウェアの役割/機能

パワード・クロージングを支える人工筋肉モジュールには、高出力・小型・軽量・静粛なアクチュエーターが求められる

case1米軍研究開発プログラムの成果を基に民生市場向け製品の開発を推進

ものづくり:原理試作

当社は米国非営利研究機関SRI Internationalのスピンオフである。コア技術である人工筋肉は、米国陸軍とDARPAのプログラム「Warrior Web program」の研究成果がベースになっている。プログラム終了後、研究を主導した当社 CEO Rich Mahoney 氏が、市場性が高いと判断し、Seismic(旧社名Superflex)を起業。アパレル分野の市場をターゲットにして製品開発を進めたが、民生市場ならではの課題が次々と明らかになった。
当初は、アシストする動作として「歩行」を想定していたが、複数の筋肉が絡み合う複雑な動作であり、エネルギー消費が大きく個人差も大きいことが判明。ハードルが極めて高いと判断し、「起立(立つ、座る)」動作に対象を転換した。また、筋骨格の動きに関する学術的知見は、特定かつ局所的な動きに限れば蓄積されているものもあるが、「起立」という動作単位での複雑なメカニズムは学術的にも十分に研究されていない領域であった。人間の動作の奥深さや難しさを知り、新たにバイオメカニクス分野のエンジニアも採用した。

また、ターゲット市場に精通したアパレル・デザイン分野のプロも参画している。ハードウェアやエレクトロニクス、ソフトウェア、バイオメカニクスのエンジニアと一緒に、常に密なコミュニケーションを取っている。

製品開発においては、「小さく・薄く・軽く・省エネ」に加えて、「実際に効果的なアシストができるか」という点から、頻繁にモニター試験を実施している。モニターに試作品を装着して様々な動きをしてもらい、それをビデオ撮影し、筋肉の動きに関するデータを取得。そこから試作品の課題を抽出し、製品開発にフィードバックし、機能だけでなくデザイン性も考慮して仕様を再検討するというサイクルを高速で回し続けている。モニター試験は3年半で300名を超えているが、もっと増やしていく必要があると考えており、実際の生活や仕事のシーン、すなわち「リアルワールド」での検証テストも随時行っている。

図. 起立動作のアシストイメージ
スタートアップが得た学び
新たなプロダクト開発で遭遇した学術的にも未解明な課題もアジャイル開発で乗り越える

研究開発成果をもとに特定の製品をターゲットとした開発を進めていくに従って、当初は想定しておらず、かつ学術的な研究もされていない、学際的な課題が次々と浮き彫りになってくる。

様々な分野のエンジニアを採用し、チームが一体となって、製品開発とモニター試験を高サイクルで回す、アジャイル開発を地道に推進し続けることが肝要。

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case2米国スタートアップと日本老舗企業が開発を円滑に推進

ものづくり:量産化設計・試作

シリーズAで日本のVCグローバル・ブレインから資金調達を行ったことに加えて、CEOのRich Mahoney氏が長年のロボット研究を通じて、製品のコアとなるモーターやアクチュエーターの技術は日本企業が長けていると認識していたこともあり、日本でモーターやアクチュエーターの開発及び製造に協力してくれるパートナー探しを始めた。
グローバル・ブレインからシナノケンシ(長野県の精密小型モーターの開発・製造などを行う企業)を紹介され、同社に見積りを打診したところ、極めて迅速かつ、米国のビジネス感覚を理解した回答が得られたことに驚いた。また、当社が求める「動き」を実現するために、過去の類似ケースを活かしてモーターとギアを最適に掛け合わせた、同社にしかできないアクチュエーターの技術力や提案力の高さにも驚き、シナノケンシをパートナーに選定した。その後も、日米の違い、老舗企業とスタートアップの違いがあるにもかかわらず、両社が経営層、マネジメント層、エンジニア層の三層構造を整えることによって迅速な意思決定が次々と下されている。

特にシナノケンシの場合、スタートアップとの協業を進める新規事業開発部門が窓口として対応しているが、この部門のトップは海外支社の社長であるため、グローバルでトップ同士のコミュニケーションが円滑に取れる。また、戦略担当取締役や開発部門トップもメンバーとして参画している独立の組織であるため、迅速な意思決定がされており、非常に助かっている。

一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあった。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし最終的に顧客の期待する機能が発揮できなければ自分たちの責任」だと考えるため、製品の使われ方など、仕様の背景情報も把握したうえで設計することが当たり前だと認識している。一方で、契約社会で情報管理も徹底されている米国のエンジニアは、「必要最低限の仕様や情報を提示し、その通りに仕上げてくれれば良い」と認識している。このため、当初、現場の開発は思うように進まなかった。

これに対し、両社の中間層が仲立ちして、両社のエンジニアが現場を見学し合って直接交流する機会を設けたり、当社トップ層にシナノケンシから要求のあった情報を開示するメリットを提示したりするなど、潤滑油的な役割を果たすことで徐々に現場もスムーズに回るようになった。

また、中間層は契約面でもSOW:Statement of Workを盛り込む工夫を凝らしている。SOWの締結は、米軍を始め同国での共同研究開発プログラムでは一般的な考え方であり、今回のプログラムのケースでは、最終目標から逆算して開発フェーズを6段階に区切り、各段階での目標や期間、必要な費用、責任の所在などを明確にした。責任の所在が明確になることで現場のコミットメントやモチベーションを高めるのみならず、事業ピボットによる設計変更ややり直しの際の費用交渉をスムーズにするなどの効果が期待できる。

スタートアップが得た学び
経営と現場の潤滑油となるマネジメント層の重要性

スタートアップとの協業においてはスピーディーな意思決定を必要とするため、協業先の経営や開発トップのコミットメントが必要。

現場層には認識や文化的なギャップがあるため、双方の経営層と現場層を繋ぐ中間層の役割が大きく、経営層・マネジメント層・エンジニア層の三層構造が共同開発を円滑に進める成功要因となった。

特にマネジメント層は、経営、マーケット、製品、技術についての深い理解が必要であり、双方にエンジニア出身かつ英語に堪能なマネジャーがアサインされていたことにより、タイムリーかつ端々に目の行き届いたマネジメントを相互信頼のもとで行うことができた。

設計変更などを見越してSOWを契約に盛り込む

SOW(Statement of Work)を明確に定義することによって、開発フェーズや責任主体を明確にしておくことで、ビジネス面のみならず、開発現場のコミットメントやモチベーションを高めることにも繋がる。

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