事例紹介
tsumug
Company profile企業概要
製品・サービス概要

tsumug は安心で豊かな世 界を生むため、コネクティッド・ロック「TiNK」(ティンク)シリーズと活用サービスを提供 モノと情報、体験を繋ぎ、シェアリングエコノミーの加速を目指している。
住宅各戸の玄関ドアに設置するシリンダータイプのコネクティッド・ロック『TiNK C』、マンション等の集合機に設置するタイ プのコネクティッド・ロック『TiNK E』などを開発している。
賃貸空物件に設置することにより、内見業務や物理鍵管理業務を効率化するほか、オーナー向けには物件価値の向上、入居者向けには生活の利便性向上といったメリットを与える。
家族間の鍵共有、ハウスキーパーなどへの一時的な鍵共有を可能に。子供の帰宅や独居老人の見守りでも利用可能。
ビジネスモデル

ハードウェアの役割/機能

内部機構の改善。通信品位向上と静電対策を実現
case1ハードウェア開発に注力しすぎるあまり事業開発が進まない
ビジネス
tsumugでは、自社で開発したコネクティッド・ロック「TiNK」(ティンク)の量産に向けて、SHARPのサポートのもと、ハードウェアの品質改良に取り組んでいる。両社は、tsumugの牧田社長がSHARPのアクセラレーションプログラムに参加したときからの付き合いで、tsumugは国内での製造や海外工場への切り換えなど、製造面でSHARPの支援を受けてきた。
そうしたなかで、tsumugでは量産に向けた取組にフォーカスするあまり、次第にハードウェア開発の課題=経営の最優先課題、という意識がメンバー間に生まれていった。
牧田氏は「tsumugは物売りだけの会社ではない」、「TiNKのデバイスが持つ課題だけが経営課題ではない」と考え、ハードェアの開発課題だけに囚われない環境を作っていった。
牧田氏は、ハードウェア開発の進捗がその他の取組に過度に影響を与えないようにした。直近で行ったオフィス移転は、サービスを作っていくという意思を、社内へのメッセージとしてつたえる役割も担った。
サービス開発も並行して進めており、「TiNK Desk」(マンションの空室を活用し、誰でも短時間から利用できるワークスペースを提供するサービス。TiNKを使って入退室を管理する。)を発表。福岡市での実証実験を開始した。
サービス立ち上げ経験のあるメンバーがいるtsumugは、その強みを活かし、次なるサービス開発も並行していく予定である。

スタートアップが得た学び
- ハードウェア開発自体を目的化してはならない
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ハードウェアを通じてサービスを提供するスタートアップにとって、製品開発の進捗が重要であることは間違いない。しかし製品開発の進捗が社業全体のボトルネックと捉えられ、それが解決しない限り事業全体が進捗しないと思い込んでしまうケースがある。
ハードウェア開発を目的化させるのではなく、並行して事業を進めていくことが重要になる。
- 開発・量産面での大企業との連携をハードウェア開発の土台とする(SHARP)
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tsumugが、ハードウェア開発と平行して、ソフトウェア・サービス・事業開発を進められるのは、長年製造支援を行っているSHARPの存在が大きい。
スタートアップは、事業を推進するにあたり、自社の得意分野と製造支援事業者の得意分野を意識し、分担しながらさらなる飛躍を目指す必要がある。
case2福岡市 実証実験フルサポート事業への応募と採択
ビジネス
tsumugは、自社で開発したコネクティッド・ロック「TiNK」(ティンク)を用いたサービス検証を行うため、福岡市実証実験フルサポート事業に応募した。
福岡市実証実験フルサポート事業とは、福岡市が主催する、先端技術を活用して社会課題の解決を目指す企業を支援する目的で始めた事業。企画が採択された企業は、規制緩和を含めた様々なサポートを受けながら実証実験を行うことができる。
官公庁や自治体の補助事業に応募する場合、必要資料を揃えるだけでも時間が掛かるため、専任の担当者が必要になるのが通常である。スタートアップにとっては負担が大きい。しかし、福岡市の場合、スタートアップがすでに資金調達などで作成するピッチブックと近い資料(事業提案書)で応募でき、負担が少ないということも後押しした。
tsumugが提案した事業(第三期:「コネクティッド・ロック」を活用した入居者向けの実証実験)は無事採択され、提出した事業計画に沿って実験を進めた。福岡市は、実験エリアの選定に協力し実験協力者への説明会の開催サポートや、PR・告知面の支援を行った。
本事業に協賛する福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)は、協業できる可能性を持った地元企業を紹介するなど、福岡市とは違った形で支援している。FDCは、地域活性化プロジェクトを行うなど、地元企業の課題や悩みを熟知。実験を行う事業者が、サービスを通じて解決したいと考えている課題を理解し、実際にその課題に悩む地元企業を紹介するなど、企業間のマッチングにも力を入れている。
tsumugはこの実証実験で、ユーザーからのフィードバックを得ることができた。サービスを提供したときに起こるであろう課題を収集し、サービス開発に繋げている。

スタートアップが得た学び
- スタートアップに協力的な自治体と連携し、実証実験の環境を確保する
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製品やサービスの開発にあたっては、ユーザーからのフィードバックを受けながら、改良を積み重ねることが重要。そのためには、開発段階からリアルなユーザーに利用してもらえる機会を設けることが必要になるが、その機会を自ら設けるハードルは高い。
スタートアップは、スタートアップ支援に前向きで柔軟な姿勢を持った自治体・組織を見つけ、自社サービスを実験できる環境や機会をより多く確保することが重要。
case3雇用形態にこだわらないチームづくり
人材・組織
tsumugは、正社員雇用だけではなく、業務委託などの契約でも参画できるようにしており、メンバーは契約形態を選択することができる。この背景には、自分の働き方や会社との関係性を思考し続ける人を増やしたい、という牧田氏の想いがある。
牧田氏は、会社員時代に海外勤務を経験したが、そのとき初めて確定申告が必要になった。確定申告の経験がなかった牧田氏は、その機会を通じて自分の資産、所得、課税額を意識するようになった。会社が税務対応してくれることは楽ではあったが、結果思考停止していたのではないかと感じた牧田氏は、個人の働き方が変わりつつある今の時代だからこそ、tsumugで働くメンバーには、雇用形態も含めて自分の働き方を見つめ直して欲しいと考えている。
最近はパラレルワーカーが増えている。tsumugにジョインすることをきっかけに、業務委託契約を結んでフリーランスで働くことに挑戦する人も増えている。ただ、業務委託契約は、締結に際して検討事項が多く、運用が難しいという一面もある。
tsumugの場合、契約にあたって、委託業務内容、契約期間(自動更新有無を含む)、委託金額、権限範囲を中心に、双方で検討・認識合わせを行っている。その際、牧田氏(委託者)と受託者双方にとって分かりやすい言葉で記載し、合意するようにしている。また、業務やプロジェクトの区切りのタイミングで、業務内容・契約内容の見直しを行うようにしている。
なお、権限範囲を規定しているのは、同社が委託金額を「会社における予算」として捉えており、その予算を契約の範囲内であれば自由に活用できるようにするためである。

スタートアップが得た学び
- 相手に伝わるわかりやすい言葉で、委託業務の認識を合わせる
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スタートアップは、正社員にこだわらず、参画メンバーを集めるケースが多い。しかし、中核メンバーは、稼働時間の確保、離脱防止のために、正社員として迎えるケースが多い。
ただ、フリーランスやパラレルワーカーが増える流れは今後も続くと推察される。tsumugのように、コアメンバーであっても業務委託契約を選択する柔軟さが求められる。
その際留意しなければならないことは、委託業務の認識合わせ、契約内容への落とし込みである。tsumugを参考に、委託側と受託側で言葉のニュアンス、表現の抽象度を調整しながら、契約文言に変換していくことが必要となる。