事例紹介

ファーストアセント

Company profile企業概要

製品・サービス概要

ファーストアセント

これまでに、2万人のモニタユーザーから集めたデータを元に、赤ちゃんの泣き声から感情を分析するアルゴリズムを開発。アプリサービスとして提供(ユーザーフィードバックによるアルゴリズムの正答率評価は80%以上の正答率を記録)上記アプリサービスは2018年7月にリリースを行っており、これまでに150カ国以上、15万人以上のユーザーが利用。
上記アプリのアルゴリズム、新たに開発するハードウェアを用いて、世界初の「赤ちゃんの泣き声を自動検知し、感情変化を分析する見守りサービス」を開発中。

ビジネスモデル

ビジネスモデル

ハードウェアの役割/機能

ハードウェアの役割/機能

枕元においても気にならない消音性。赤ちゃんの泣き声を正確に分析できるようノイズキャンセリングを搭載

case1国立研究機関との初めての共同研究

ビジネス

ファーストアセントは、育児記録の簡単登録・見える化を実現するスマートフォンアプリ 「パパっと育児@赤ちゃん手帳」 をリリ ースし、サービスを展開。社長を務める服部氏は、ユーザー数、ユーザーメリットの観点から、広告表示やユーザー課金ではなく、収集データを使った収益化を志向するようになった。そのためには、収集データ(育児ビッグデータ)の価値を証明しなければならない、と考えるようになった。
育児ビッグデータが持つ価値を証明するには、少ないサンプルによる検証ではなく、統計的な検証を行うことと、育児ビッグデータが医療にもたらす影響について、学術的な研究も必要だと感じていた。そこで服部氏は知人に頼み、大学や研究機関の先生や研究者を紹介してもらった。結果、子供のライフログデータに強い関心を持った国立成育医療研究センターの研究者に出会うことができた。

これまで、乳幼児の実態調査は、多数のデータ収集が困難であり、保護者からの聞き取り調査に依存していた。服部氏と研究者は議論を重ね、同社のビッグデータを活用することで実態調査を補完できると考え、共同研究を行うに至った。

本共同研究は、ファーストアセントと、同研究センターの双方からプレスリリースを出しているが、研究センター側のリリースを見た大手企業から問い合わせが入るようになり、その後のPoC案件獲得へと繋がった。

なお、この時の共同研究に必要となった資金は同社の持ち出し(借入にて調達)で対応した。研究費を獲得する方法もあったが、大量のレポーティングを要求される可能性もあり、スピード、工数の観点から、同社は、研究費を選択しなかった。

Consumer Electronics Show(CES)出展PRを通じた協業候補先の獲得
スタートアップが得た学び
業界内の情報ハブとなる組織・人物の力を借りて認知と信頼を獲得

スタートアップにとって、製品・サービスの試作・開発、量産化、事業拡大において大手企業との協業は欠かせない。そして、その最初の協業となる取組が、PoCである。PoCを行うには、大手企業からの認知獲得、組織としての信頼獲得が必要になる。

ファーストアセントは、国立成育医療研究センターという育児×ヘルスケア領域において高い信頼性を持った研究機関(情報のハブとなる組織)と共同研究し情報発信を行うことで、認知と信頼の両方を同時に獲得することに成功している。

スタートアップは、自社が事業を展開する業界・領域において認知と信頼を持った組織、人物とつながり、その認知と信頼を一気にレバレッジすることが重要。

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case2大手企業との初のPoC案件獲得に頓挫

ビジネス

国立成育医療研究センターがプレスリリースを発表した後、大手企業A社から本格的なPoC案件の引き合いがあった。プレスリリースを見たA社の役員であるB氏は、すぐにファーストアセントへ連絡をし、PoCに向けて、非常に積極的な話し合いを行うことになった。
B氏は、ベビーテック領域でプロダクト開発を行うことがミッションで、開発に向けたリサーチ過程で、ファーストアセントと同センターとの共同研究を知り、コンタクトしてきた。B氏との話はトントン拍子に進んでゆき、開発に向けたリサーチなども共同で行っていた。しかし、プロダクトを具体化していく過程で参加メンバーが増えていくと、次第に、プロダクトの議論の風向きが変わっていった。

A社メンバーは、より確実に開発でき、かつ、尖りを抑えたプロダクトを考えるようになったのである。本来、より斬新で、A社の未来につながるプロダクトを企画・PoCを提案する方向で議論を進めることが理想だった。しかし、厳格な開発期日が設定されていたこともあり、実現可能性が高いプロダクト開発が優先されるようになった。

最終的に、本PoC提案は、服部氏が予算を当初の半分以下に抑えた案にまとめ直し、A社の役員稟議にかけられた。しかし、投資回収期間、失敗時のリスクがネックとなり、実施が見送られた。ファーストアセントは、約8か月、案件獲得のために注力してきたが、同社初のPoC案件は頓挫した。

(出所)ヒアリング内容をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
スタートアップが得た学び
協業企業の状況、目指すゴール、メンバー個人の立場を知り、リスク許容度を見極める

製品・サービスの試作開発におけるPoCで、スタートアップは、協業する大手企業のリソース確保のため、いかに大手企業内で稟議を通すか、という課題に直面する。

ファーストアセントもA社と提案準備を進めていたが、内容が実現可能性に傾斜する状態に陥った。その結果、提案の斬新さが失われ、リスクだけに注目が集まり、PoC案件の実施が見送られることになった。

このような事態に陥ってしまったのは、タイトなスケジュール、高い実現可能性を要求する姿勢、失敗した場合のキャリア保障がないリスクなど、A社関係者に多くのプレッシャーが重くのしかかっていたためと推察される。

スタートアップは、協業する大手企業の状況、目指すゴール、リソース、関係者の立場を詳しく把握したうえで、相手方が、企業として、ビジネスパーソン個人として、どれだけリスクを許容できる状態にあるか見極めることが必要。

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case3スタートアップファクトリーとの協業深化

ものづくり:量産化設計・試作

ファーストアセントは、現在、「赤ちゃんの泣き声を自動検知し、感情変化を分析する見守りサービス」の開発に向けて、自社ハードウェアの開発を進めている。ハードウェアの開発にあたっては、以前協業した株式会社ノエックスに加えて、有限会社スワニーと協業している。(ノエックスがハードウェア設計、スワニーが金型製造を担当。)
ファーストアセント社長の服部氏は、学生時代、材料工学・ナノテクを専攻し、大手電機メーカーに就職。当時、服部氏は、隣の研究室で行われていた金属加工、製造ラインでのものづくりの様子を見ていたため、射出成型に関する知識、金型製作のコスト感覚を事前に持っていた。
そのため、服部氏は、当初、スワニーがデジタルモールド(3Dプリント樹脂型を用いてABS、PS、POM、PPなど量産材料で射出成形できる技術)で作る型の強度が弱くなることを不安視していた。しかし、服部氏が、スワニーの工場を訪問、工法・型の現物を見たとき、不安は解消された。服部氏は、デジタルモールドの品質、スピード、コスト感に驚き、ものづくりに関する知識や感覚が覆されたと感じた。

その後、ファーストアセントは、設定した予算枠のなか、約半年の間に、2回のフルカラー3Dプリンターによる試作、複数回のデジタルモールドを使った試作による金型設計へのフィードバックを繰り返し、現物の感触を確かめながら仕様を固めていった。そして、 CES展示用 兼 サービストライアル用のハードウェアを完成、CESに出展。多くの方から反響を得ることができた。

なお、その間、ファーストアセント、ノエックス、スワニーの3社は、関係者間で、実現したいユーザーエクスペリエンスについて、定期的、かつ、直接、認識合わせを行っていた。

図. 今回の試作開発を経て完成した金型 外観
スタートアップが得た学び
スタートアップファクトリーの製造技術を用いて効率的にハードウェア試作を繰り返す

スタートアップは、限られた資金と時間のなかで、サービス及びサービスを実現するために必要な開発を行わなければならない。そのため、開発上の試行錯誤を効率的に行う必要がある。

ソフトウェアに関しては、効率的な開発手法(アジャイル開発)が確立され、すでに普及しているが、ハードウェアに関しては、その手法が発展途上にある。デジタルモールドは、効率的な開発を実現する手法の1つであり、今後、他の技術も含め、普及していくと推察される。

ハードウェア開発を行うスタートアップは、すでにハードウェア開発の経験があるスタートアップからの情報(製造事業者の評価)を得ながら、スタートアップファクトリーを活用して、効率的なハードウェア試作を繰り返すことが重要。

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