事例紹介

つつう

Company profile企業概要

つつう
社名
つつう株式会社
代表者
吉田 崇
所在地
東京都台東区上野5-13-11
設立
2017年5月
従業員数
3名
事業内容
IoT対応次世代自動販売機「TUTUU PLANT」の開発・製造。
【IoT対応次世代自動販売機「TUTUU PLANT」】
IoTや電子マネー決済に対応し、売上や在庫状況、販売価格、音声・LED演出パターン等を遠隔地からリアルタイムに把握・制御することが可能。消費者と商品提供者・クリエイター、店舗を繋ぎ、常に変化し続ける自販機。

製造するハードウェア(TUTUU PLANT β)

製造するハードウェア(TUTUU PLANT β)

部品構成(主要品のみ)

部品構成(主要品のみ)

製造企業 連携図

製造企業 連携図

ケーススタディ一覧

ケーススタディ一覧

case1「TUTUU PLANT α 版(試作・コンセプト)」の開発・製造プロセス

原理試作

顧客の要望を受けて設計・開発に着手

顧客が設置しているガチャガチャを交通系電子マネーに対応できるように改造して欲しいという要望を受けて、機構設計とデザイン設計に着手。

機構部分だけで顧客の想像以上の価格となったが、現在のTUTUU PLANTにも繋がるツリー構造のデザイン設計やコンセプトに対しては、顧客から高い評価を得る。

顧客に対して提案や情報開示を行う際は、NDAを締結した上で、知財化しようとしているコア部分を除いたノンコア部分だけを開示するように留意した。

大企業の要望を受けて企画・提案を行うものの、実際の開発は資金面で折り合わず、自社資金によってスタートする

顧客との商談自体は、開発コストがネックとなり、なくなってしまったが、デザイン設計やコンセプトに対する顧客からの評価は高かったこともあり、自社資金による開発を決断した。

資金的に厳しい状況であったが、外部の意見に左右されず、自らの意思で開発を推進することができた。

つつう課題・転機 1.1
段階
  • 原理試作
  • 量産化設計・試作
  • 量産・量産後
  • その他
悩み
  • 考え方
  • 探し方
  • 付き合い方
  • その他

TUTUU PLANTを開発する発端は、鉄道会社が設置しているガチャガチャを交通系電子マネーに対応できるように改造してほしいとの依頼であった。従来のガチャガチャは、コインを入れるとハンドルを回せ、商品を排出する機構であったため、コインレス・電子マネーで決済可能にするためには、商品排出機構を抜本的に見直す必要があった。

そこで、新たに、電子マネー決済と連動して駆動するハンドルや電子モーター制御による商品排出機構を考案した。しかし、当該機構だけで顧客の想定する金額を上回る見積になってしまい、顧客は「金額が高すぎるし、開発費を出すこともできない」という反応であった。

なお、知的財産に対する意識は強かったため、外部に情報を開示する際は、必ずNDA(秘密保持契約)を締結した上で、特許化したいコア部分は秘匿し、ノンコア部分だけを開示していた。開発に着手する前のコンセプト段階で、TUTUU PLANTのビジョンに共感してくれる弁理士に出会えたことで、最終的なビジョンから逆算して必要な知的財産を考え、開発と並行して特許と意匠の出願を進めた。

現在のTUTUU PLANTのベースにもなっている「ツリー構造」に対する顧客の評価は高かった。ツリー構造は、幹にあたる共通の商品排出経路の両側に、枝葉のように複数の商品ストックボックスを配置する構造である。斬新なデザイン性だけでなく、複数の商品ストックボックスを垂直方向に重ねることによる省スペース機能等のインパクトがあり、顧客内部では上層部までもが関心をもっていたという。

結局、商談自体は止まってしまったが、TUTUU PLANTのコンセプトに対する顧客の反応は非常に良かったため、大きな可能性があると確信。自己資金でゼロから開発することにした。自己資金での開発は資金的に厳しかったが、自らの意思で開発を進めることができる等のメリットも多々あった。

TUTUU PLANT α 版の開発では、電子決済機能に対応した新機構とツリー構造の二つを実体化することを最優先事項とした。このため、開発費だけで1,000万円を超える規模に膨れ上がってしまったが、タイミング良く開発資金を調達することができた。

スタートアップが得た学び
開発の初期段階では受託開発にならないよう自己資金で進めることが望ましい
試作開発を進める前段階で、プロダクト・コンセプトを顧客に提案し、早い段階でフィードバックを得ることは重要である。ただし、特にハードウェアの場合は、並行して特許や意匠等の知的財産権の出願・取得やNDAの締結による情報流通の制御等、知的財産面での対策は不可欠。
ハードウェアは開発費の初期投資が大きく大変であるが、スタートアップの強みを生かした柔軟かつ機動性のある開発を進めるためには、特に初期段階においては、外部・第三者の開発資金供与は受けずに自己資金によって開発することが望ましい。

くわしくはこちらとじる

経験のない技術分野も専門家への質問攻めと外部協力者の獲得で対応

TUTUU PLANTの開発においては、これまで経験のない技術分野も少なくなかった。ハードウェアは全てが繋がっているため、新たな技術を取り込むには、その仕組みや構造を深く理解する必要があった。

そこで、専門家を質問攻めにし、「知らないこと」「分からないこと」をなくす→設計・開発に反映する、というプロセスを繰り返した。

また、ユーザーの目線で重要でないと思われる部分については、自前設計・開発にこだわらず、外部のサポートを得た。

つつう課題・転機 1.2
段階
  • 原理試作
  • 量産化設計・試作
  • 量産・量産後
  • その他
悩み
  • 考え方
  • 探し方
  • 付き合い方
  • その他

社長の吉田氏は、樹脂分野の製造業での長年の経験を有していた。具体的には、アパレルブランドのショーウィンドウのデザイン設計から装飾、コンビニエンスストアのタバコ陳列什器の設計・開発から製造、自社ブラントの樹脂製デザイン雑貨等、これまで、ものづくりのバリューチェーン全体で携わってきた。

しかし、TUTUU PLANTの開発においては、これまで経験のない技術分野も少なくなかった。例えば、「電子ボタン」のような比較的シンプルな部品でも、設計・開発に取り込もうとすると、その仕組みや構造をより深く理解している必要がある。ハードウェアは全てが繋がっているため、以前から付き合いのあった電子基板メーカーのA社を、自分が納得するまで質問攻めにして、理解に努めた。

また、TUTUU PLANTはモーターで電子駆動することが一つの特徴であるが、メカトロニクスの知見も乏しく、モーターを選定する上での基本的な仕様・スペックの見方すら知らなかった。そこで、インターネット検索してモーター商社に電話し、少し話をして対応が良いと、直接訪問し、「こんなことがやりたいのですが」とニーズを伝え、商品を紹介してもらい、一つ一つ丁寧に疑問点を潰していった。このように、分からないことは、専門家に尋ねて自身が理解し、設計・開発に反映するというプロセスを繰り返す日々であった。

基本的には全部自分で手掛けたいと考えているが、「ユーザーの体験や目線でみた際に重要性が高くないと思われる部分」については、外部の協力を得ることが現実的だと考えている。TUTUU PLANTの場合は、支払い・ハンドルを回す・商品を保管する・商品を排出するという4つが重要性の高いコアな機能であると考えており、それ以外の周辺部分は、そこまで重要性は高くない。

スタートアップが得た学び
ハードウェアは全てが繋がっている「分からない」部分を放置しない
ものづくりの設計・開発は全て繋がっているため、特に初期段階で自ら理解しないまま外部に丸投げすると、設計・開発の柔軟性を損なうリスクがある。
製品の全体を把握した上で、ユーザー目線で重要性の高い部分・機能は徹底的な自前主義で設計・開発をするが、それ以外の部分・機能は必ずしも自前での設計・開発にこだわらなくても良い。

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case2「TUTUU PLANT β 版」の開発・製造プロセス

量産化設計・試作

産業機器におけるRaspberry Piの採用を検討

売上データをリアルタイムに把握するために、通信機能が搭載できる電子基板として、Raspberry Piの導入を検討。しかし、これまでの協業先から「Raspberry Piは壊れる」という根拠のない反対に遭う。

産業機器でRaspberry Piを採用した実績ある企業を探し、相談したところ、「より厳しい環境下でも問題なく稼働しており、TUTUU PLANTへの採用も問題ない」という実績に基づいた明確な説明を得ることができた。

また、万一壊れても、Raspberry Piは安価なため、すぐに取り替えが効くと考え、改めてRaspberry Piの導入を決断した。

つつう課題・転機 2.1
段階
  • 原理試作
  • 量産化設計・試作
  • 量産・量産後
  • その他
悩み
  • 考え方
  • 探し方
  • 付き合い方
  • その他

TUTUU PLANTの売上データをリアルタイムに把握するために、通信機能が搭載できる電子基板として、Raspberry Piを導入したいと考えた。什器本体を動かすメイン基板と通信機能をもつ通信基板の両方をRaspberry Piに置き換えることにした。

TUTUU PLANT α版で支援を受けた A 社に相談を持ち掛けたところ、猛反対を受けた。明確な根拠はないようであったが、通説的に「Raspberry Piは壊れる」と言われているようで、特に産業機器で使用することは避けるべきとの意見であった。

しかし、Raspberry Piの出荷台数は累計1千万台を超えている事実があり、仮に「Raspberry Piは壊れる」というのが本当であれば、出荷台数はそこまで伸びていないだろうと考えた。MS-DOSが出てきた際も、「MS-DOSは壊れる」と根拠のない噂が出回っていたのと同じで、「Raspberry Piは壊れる」というのも、既存市場を守る言い訳ではないかと疑っていた。

そこで、Raspberry Piを使用した産業機器を設計・製造できる企業をインターネット検索したところ、株式会社ルナネクサスが、Raspberry Piを使った太陽光発電の制御システムを構築していることを知った。早速問い合わせたところ、屋外環境で冬は零下、夏は猛暑の環境であるが、全く問題なく動いているという話であった。TUTUU PLANTは有人店舗管理下に設置するもので、太陽光発電システムの環境ほど厳しくないので、「Raspberry Piは壊れる」という懸念は心配ないだろうとの見解であった。

万一壊れても、Raspberry Piは安価なため、すぐに取り替えが効くと考え、改めてRaspberry Piの導入を決断。ルナネクサスもTUTUU PLANTに関心をもってくれたため、一緒にβ版の開発を進めることに決めた。

スタートアップが得た学び
実績の少ない製品・技術の使用方法であっても、参考になる先行事例は少なからずある
新たなハードウェアを開発する場合、先行事例が少ないような部品等の使用方法を採用することが必要になるケースがあるが、特に実績のない関係企業は、その使用方法の採用に反対するケースも少なくない。しかし、根拠が明確でない反対は真に受けない方がよい。
全く同じ先行事例はなくても、転用可能な類似事例を探すと、先行的な取組を通じて知見を有するキープレイヤーに出会えることもある。

くわしくはこちらとじる

量産を見据えた設計・開発を加速させるために、経験豊富な専門人材や企業との協業・開発体制を構築

業界変化が早い電子決済や関連技術に詳しい専門人材との協業体制を構築し、電子基板メーカーとの開発における橋渡し役も担うβ版開発のキーパーソンになってもらった。

また、量産されているアミューズメント機器の設計・開発実績のあるフリー・エンジニアの助言を得て、量産化を見据えた設計・開発を自社主導でスタートした。

つつう課題・転機 2.2
段階
  • 原理試作
  • 量産化設計・試作
  • 量産・量産後
  • その他
悩み
  • 考え方
  • 探し方
  • 付き合い方
  • その他

β版開発にあたって、量産化を見据えた協業先の開拓が必要だと考え、α版を見せながら関心をもってくれる協業先を探した。電子決済は、α版では交通系ICカードのみに対応していたが、他のブランドやQRコード決済等に適宜対応していく必要があった。しかし、当該業界の構造は複雑、かつ、変化が早いため、自前でフォローすることが難しく、業界に身を置く協業先が必要だと考えた。

電子マネーリーダー・ライターの選定の際に、イスラエル製品の国内販売代理店を訪問したところ、電子決済の技術とビジネスの両面に詳しい C氏に出会った。C氏 氏もTUTUU PLANTのビジョンに共感を示してくれたため、メンバーとして参画してもらうことになった。C氏は前職のSONY時代にFelicaの開発に携わった経験があり、電子回路設計や半導体、プログラミング技術に詳しく、吉田氏のアイデアを技術的な仕様に変換してルナネクサスに伝える等、β版開発を進める上で欠かせない存在となった。

また、量産を見据えて、設計段階から品質・安全性に関する助言を受けられて、量産の製造・組立てでも協業できる協業先を探していた。大手電機メーカー D社の役員の一人がTUTUU PLANTに関心を持ってくれたため、実際に協業の相談を進めていたが、最終的には破談となった。その理由は、D社の役員は積極的であった一方で、作業が決まった仕事しかしたことがなかった製造現場においては、仕様や製造数量が固まっていない状態では仕事ができないということであった。

当社としては、量産化に向けた品質・安全性を加味した設計ノウハウ等を教えて欲しかったため、共同開発の可能性も検討したが、通常業務範囲を大きく超えた仕事に社員を送り出すほどの意欲はなかったようである。特に量産に最適化されたライン型の製造現場は、スタートアップと未来のものづくりを考えるような発想にはなりにくいのかもしれない。

アミューズメント機器の設計・開発を多数手掛けた実績のある、フリーランス・エンジニアに相談しながら、β版の設計・開発も基本的には自社主導で進めた。まだ事業の見通しが立たない状態で、大手メーカーが求める仕様や製造数量を確約するのは不可能である。仮に、自社製造では追いつかない程度まで市場が成長し、仕様や製造数量の見通しが立つようになったら、再度協業を打診するかもしれない。

スタートアップが得た学び
外部の専門人材の知見を活用できる体制構築が重要
量産を見据えた場合、設計・開発段階からメーカー等での経験が豊富な専門人材の知見を活用できる体制を構築することで、自社の経験値の少なさを補うことができ、設計・開発のスピードを加速させることができる。
製造工程での連携先は仕様や製造数量が固まった段階で協力を求めた方が良い
製造工程の協業先は、仕様や製造数量が固まらない段階では先方の仕事にならないため、設計・開発段階での相談には乗ってもらうことは難しい。

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仕様や製造数量が固まらない段階では、製造協業先の協力を得ることは困難だと思い知る

将来の量産を見据えて、製造での協業先も模索したが、仕様や製造数量が定まらない状態で協力を得ることは難しい現実に直面。

特に将来が不確実なスタートアップの開発においては、ビジョンや事業に強く共感する個人でないと、うまく協業することは難しいことを実感。

つつう課題・転機 2.3
段階
  • 原理試作
  • 量産化設計・試作
  • 量産・量産後
  • その他
悩み
  • 考え方
  • 探し方
  • 付き合い方
  • その他

日本は試作に係る費用が高すぎる。日本は技術的には優れているが、製造コストは中国に比べると数倍高い。質の観点からみると、中国は信じられないミスをすることが多く、日本のほうがものづくり力は高いといえるが、コストが数倍違うため総合すると中国が魅力的に見えてくる。

日本製造業の試作費用が高いのは、大企業向けの価格設定をスタートアップにも適用しているからではないか。大手であれば、試作段階ではデポジットとして高めの価格設定をしても、その後の量産まで付き合うとバランスが取れてくる。これと同じ考えで、スタートアップにも見積を出しているのではないか。

実際、過去に付き合いのなかったモーターメーカーに直接依頼した見積よりも、付き合いのある商社に依頼した方が、商流が一つ長いにも関わらず安かったことがある。日本の製造業は、一見さんに対して厳しい環境なのではないだろうか。

そんな中、良い協業先に辿り着くためには、直接会って話をしてみるしかない。全く共感を得られずに破談となるケースはとても多いが、心から共感してサポートしてくれるパートナーが必ずいる。実際、B社は、仕様が日々変更されるような難しい状況下であっても、TUTUU PLANTのビジョンに強く共感して、根気強く付き合ってくれている。共感を得られないと、特に初期段階のスタートアップと一緒に設計・開発を進めるのは難しいのではないか。

多くの人は、目に見えるモノや結果・実績でしか判断しない。そんな中、目に見えない可能性等も含めて信じて判断できる人とは、良いパートナーになれることが多い。当社の他メンバーもそうだが、会社や組織の中で少し異端な存在の方が、共感し、パートナーとして一緒にチャレンジしやすいのかもしれない。

スタートアップが得た学び
連携先を決める際には直接会って話して共感を得られるパートナーかを見極めること
大手メーカーとの付き合いの長い日本の製造企業は、一見さんであるスタートアップに対して厳しい面がある。
しかし、そんな中でも、直接話をすることで、事業やビジョンに共感してくれるパートナーに出会えることがある。スタートアップの可能性を信じて、心から共感してくれないと、一緒にチャレンジすることは難しい。

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