事例紹介
ロビット
Company profile企業概要

- 社名
- ロビット株式会社
- 代表者
- 高橋 勇貴
- 所在地
- 東京都板橋区新河岸1-5-11
- 設立
- 2014年6月
- 従業員数
- 11名
- 事業内容
- ロボット、精密機器、関連するハードウェア、部品及びソフトウェアの設計、製造、販売
【BtoC事業】
めざましカーテン mornin’plus
【BtoB事業】
・機械学習を用いた外観検査装置 TESRAY
・AI技術を活用したばら積みピッキングソリューション PIQ等
製造するハードウェア(mornin’plus、TESRAY))

製造企業 連携図(mornin’plus)

ケーススタディ一覧

Case study事例紹介
case1「めざましカーテン mornin’」の開発・量産・次世代機開発
原理試作
会社設立後、自社製品開発に乗り出す
2014年設立のロビットは、IoT、機械学習、ロボティクスをドメインとするものづくりスタートアップ企業。創業時からロボットづくりに取り組んでおり、そのノウハウを活かして一般コンシューマー向け自社製品として「めざましカーテン mornin’」を開発し、2016年7月にリリースした。mornin’は、製造(量産)は委託先の工場で行っているものの、企画・開発・デザインから量産の一歩手前の工程までは、自社で全て行っている。
本ケースは、「めざましカーテン mornin’」の量産一歩手前まで自社で十分に準備を済ませた後から、初期量産を完了させるまでの間の試行錯誤を取り上げたものである。
量産化設計・試作
EMSの話を鵜呑みにして任せきりにした結果、試作品不良が発生
「海外企業、特に中国企業との付き合いは非常に難しい」という話を鵜呑みにして、EMSに基本的には任せきりの状態で量産フェーズに入った。それでも、特に重視していた外観(筐体の射出成型)については細かく指定するなどの対応をとっていたが、完成した試作品は、ロビットの指定とは大きく異なるものであった。EMSに抗議したところ「中国企業と直接交渉するように」との回答があり、初期量産は暗礁に乗り上げた。
ロビット課題・転機 1.1
- 段階
-
- 原理試作
- 量産化設計・試作
- 量産・量産後
- その他
- 悩み
-
- 考え方
- 探し方
- 付き合い方
- その他
ロビットは、「めざましカーテン mornin’」の開発にあたり、詳細設計まで自社としては完璧に仕上げたうえで、量産試作以降の工程はEMSのA社に委託しようと考えた。そのA社は、国内の中小規模のEMSで、量産は中国の協力工場で行うこととなっていた。
EMSとはNDAを締結したうえでミーティングを重ねた。その際、EMSから繰り返し受けた「海外企業、特に中国企業との付き合いは非常に難しい」という話を鵜呑みにして、EMSに基本的には任せきりの状態で量産試作のフェーズに入った。
EMSやそれぞれの部品を製造する中国の工場との契約については、発注書を交わしたのみで、契約書は交わさなかった。納期については「いつ頃を目処に」という記載は発注書に記したものの、契約履行義務等についての詳細な定めは無かった。EMSから「中国企業のハンドリングはそれほど難しい」と聞かされていたため、そういうものだと了解していた。
mornin’は外観を非常に重視していたため、射出成型で製造する筐体部品に関しては、部品の3Dデータだけでなく、金型に樹脂を流し込む湯口の位置を含め非常に細かく指定した。その後、中国の工場から金型で作った試作品が届いたものの、指定した以外の箇所に湯口が付いているなど、いくつかの不具合があったためEMSに抗議したところ、「そうした細かいことは中国の工場と直接やり取りするように」との回答であった。
湯口の箇所が当社指定と異なっている理由を中国の工場に問いただすと、「こちらの方がやり易かったから変えた」といったものであった。中国の工場にはそのようなことがしばしばあると聞いていたため、それ自体にはさほど驚かなかったが、「そのような事態が発生しないように間に入るのがEMSではないか」と違和感を覚えた。また、湯口の箇所を当社指定通りに変更するためには長い日数を要するという説明を受けたものの、「本当にそれほど時間がかかるのか」、「EMSは適切に役割を果たしているのか」と不信感が強くなった。
スタートアップが得た学び
- EMSに委託したとしても各工場との細かい調整は自社でやるしかない
- 自社内に量産のノウハウが少ない場合、多くのスタートアップはEMSに量産試作と量産を委託することになる。(そしてEMSは国内外の協力工場を使ってスタートアップの製品を作り上げる。)
- このとき、EMS側に全てを任せきりにしてしまうと、細部のこだわりを伝えることができず、目指す製品が作れなくなる可能性が高い。EMSへ委託したとしても、細部のこだわりを実現するためには、実際に製造を担う各工場とのコミュニケーションは自ら積極的に行う必要がある。
EMSへの委託中止交渉と金型の引き上げ作業が難航
決定済みのリリース日に間に合うかどうか不透明な状況に陥ったため、追加コストがかかろうとも、日本国内で協力工場を自力で探索して、量産・組立することを決めた。しかし、EMSへの委託中止と金型回収の交渉が難航し、金型引き上げまでに1ヶ月程度を要した。
ロビット課題・転機 1.2
- 段階
-
- 原理試作
- 量産化設計・試作
- 量産・量産後
- その他
- 悩み
-
- 考え方
- 探し方
- 付き合い方
- その他
中国の工場から送られてきた射出成形部品のサンプルに多くの不具合があったため、金型の修正が必要になった。しかし、EMSや中国の工場の対応は遅く、その修正がいつになれば終わるのか見通しが立たない状況が続いた。
当時、ロビットでは既に製品リリースにともなうPRのスケジュールを組み上げており、これ以上量産のスケジュールを遅らせるわけにはいかない状況だった。
そこでロビットは、追加コストがかかろうとも、国内での確実な方法、つまり協力工場を自力で探索して、量産・組立することを決めた。上海~日本の製品輸送リードタイムが想定以上に長く、1ヶ月を要することも、決断に至った要因の一つ。日本において量産・組立を実施するほうが納期短縮につながると判断した。
しかし、委託中止についてEMSからスムーズに了承が得られず、金型引き上げも含めて交渉が難航。EMSは量産・組立工程における利益も勘案して金型製作の値付けをしていたため、中国にある金型を日本に運ぶことについては非協力的な姿勢であり、「中国において金型の梱包までは実施するものの、その後は自力で処理」するようにと突き放された。国内で付き合いのある組立メーカーに相談したところ、つながりのある東莞の中国企業に、金型の送り出し作業を依頼してくれた。結局、中国から日本への金型引き上げまでに1ヶ月程度を要した。
スタートアップが得た学び
- 委託先とのトラブルに備え、契約解除や金型回収について書面で明確にしておく
- 量産試作や量産の工程をEMSに委託していても、量産試作の段階でトラブルが生じて委託先の切り替えが必要になるケースは少なくない。
- その場合、EMS側にとっても痛手となるため委託中止の交渉が難航することも多い。特に金型を製作した後に委託先を切り替える際には、金型の回収が困難になることすらある。
- 契約書ではなく受発注書ベースの取引であっても、契約履行義務・解除条件については事前に交渉して取り決めておくことが重要。
量産・量産後
EMSへの委託を止め、協力工場を自力で探索して初期量産に成功
金型回収と並行して、国内の協力工場探索を進め、結果的に10社程度と取引をした(部品総数は約32点)。中国企業からの部品調達については、基本的にはアリババ経由での調達が有効で、最終的には自力で無事量産工程を組み上げることができた。
ロビット課題・転機 1.3
- 段階
-
- 原理試作
- 量産化設計・試作
- 量産・量産後
- その他
- 悩み
-
- 考え方
- 探し方
- 付き合い方
- その他
金型回収と並行して、国内の協力工場探索を進め、10社程度と取引をした(部品総数は約32点)。一部企業は紹介によるものだが、その他はインターネット検索等を通じて自力で開拓。おおむね3社アプローチして1社決まるような決定率だった。
ロビットのようなスタートアップともスムーズに取引してもらえる企業の特徴としては、ホームページが充実していることが多かった。これは、大手企業以外の新しい案件やチャレンジにも関心が高く、外に目が向いているからだと考える。
結果的に、特に組立メーカーと板金メーカーとは、次世代機開発を経て現在に至るまで、非常に良い関係を築くことができている。最初に問い合わせた時から、様々な助言を受けることができ、非常に感謝している。
なお、中国企業からの部品調達については、基本的にはアリババ経由での調達が有効であった。万一不良品等が発生した場合、アリババ自身が中国サプライヤーに厳しい対応をとってくれるため、安心できる。中国サプライヤーはアリババとの取引に支障が出ると経営に大きな影響が及ぶため、不良品等のクレームには比較的誠実な対応をとってくれることが多かった。
なお、サンプル品と量産品の品質には大きな差異があることが多いため、サンプルを入手するだけでなく、コストがかかっても1千個または1万個単位で発注して品質を確認することを推奨する。
スタートアップが得た学び
- 量産経験がなくてもEMSを介さず自力でサプライチェーンを構築することは可能
- 初期のロビットは、社内に量産ノウハウを持つ人材がいなかったため、それを補うためにEMSに量産試作以降の工程を委託した。しかし、最終的にはEMSを介さずに、自社で部品ごと・工程ごとに協力工場を探索してサプライチェーンを構築した。
- 協力企業探索・サプライチェーン構築は、「量産の難しさ」に臆するあまり、多くのスタートアップが他者任せにしてしまいがちな部分ではあるが、「やろうと思えば自社でできる」し、「自社でやったほうがコストや品質をコントロールできる」可能性もある。
初号機の経験を活かし、次世代機のスムーズな開発・量産に成功
「mornin’」の販売開始とほぼ同じタイミングで、次世代機「mornin’plus」の開発に着手。ロビットにとって初号機の量産時に得たノウハウやネットワークが非常に強力であり、次世代機の量産は、そのノウハウやネットワークを活かすことで比較的vスムーズに進めることができた。
ロビット課題・転機 1.4
- 段階
-
- 原理試作
- 量産化設計・試作
- 量産・量産後
- その他
- 悩み
-
- 考え方
- 探し方
- 付き合い方
- その他
ロビットでは、「mornin’」の販売開始とほぼ同じタイミングで、次世代機「mornin’plus」の開発に着手した。
「mornin’plus」は、設計を一から見直して初号機「mornin’」の課題の多くを改善したものである。特に、初号機では取り付けるとカーテンレールとタイヤの摩擦でカーテンが手動開閉できなくなるという欠点があったが、mornin’plusでは本体のタイヤに昇降機構を搭載し、この課題を克服した。
これらの改良にともない、モーター数が1つから2つに増え、部品点数も2倍に増加するなど、開発や量産の難易度が非常に高いものだった。しかし、ロビットにとって初号機の量産時に得たノウハウやネットワークが非常に強力であり、次世代機の量産は、そのノウハウやネットワークを活かすことで比較的スムーズに進めることができた。
初号機の試作や製造に携わった国内の工場は、次世代機の試作・製造にも非常に協力的で、コミュニケーションも取りやすく、ほとんどの部品や工程は既存のサプライチェーンの中で対応することができた。
一点、新たに必要になった切削部品に関しては、国内外の様々な工場に見積を依頼した結果、中国の工場に委託することにした。その中国の工場は、国内の工場の1/5程度の見積金額であり、リスクや品質の問題を考慮したとしても、日本の工場よりもメリットが大きいと判断した。
スタートアップが得た学び
- 2つ目以降のプロダクトの開発と量産は、劇的にスムーズに進む
- 初号機から次世代機に切り替わっても、量産時に得たノウハウやネットワークはそのまま活用できることが多い。むしろそのまま活用できた方が、次世代機の開発・量産に要する工数を大幅に短縮することができるため、スピード重視のスタートアップにとってはメリットが大きい。
- したがって初号機の量産時には、次世代機以降の開発も念頭に置きながら、協力企業探索とノウハウ習得にしっかり取り組むべきである。また、協力企業とは、長期的な関係を築くことができるよう、丁寧な対応や真のWin-Win関係構築に取り組むことが重要である。
case2外観検査自動化装置 TESRAYの事業化
原理試作
工場における検査員不足の課題を解決する「TESRAY」
近年の製造業は、工場の外観検査工程における人手不足に悩まされている。また不良品の見逃しはあってはならないが、人が見る以上はどうしても見逃しも生じてしまい、ヒューマンエラーによる大きな損失が発生している。
その課題を解決するソリューションとして、AI・機械学習を活用した外観検査装置「TESRAY」の原理試作を開始した。
量産化設計・試作
競合企業等によるリバースエンジニアリングのリスク対策
「TESRAY」は、展示会等の公の場で発表する機会も多く、競合企業等の目にも触れやすいため、リバースエンジニアリングへのリスクを抱えている。
「TESRAY」は、AIとハードウェアのどちらにも強みを有する製品であり、特にハードウェアに関してはリスクが大きく、危機感を持っている。
ロビット課題・転機 2.1
- 段階
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- 原理試作
- 量産化設計・試作
- 量産・量産後
- その他
- 悩み
-
- 考え方
- 探し方
- 付き合い方
- その他
「TESRAY」は、展示会等の公の場で発表する機会も多く、競合企業等の目にも触れやすいため、リバースエンジニアリングへのリスクを抱えている。「TESRAY」は、AIとハードウェアのどちらにも強みを有する製品であり、特にハードウェアに関してはリスクが大きく、危機感を持っている。
また、一般論としてはクライアントによるリバースエンジニアリングのリスクもゼロでは無いため、契約書の内容について注意を払うようにしている。しかしそれであっても、納品物の内容等に関して、クライアントとの間にギャップが生じることがしばしばある。しかし、リスク回避のためにも契約書に定める納品物以外は提供していない旨を丁寧に説明し、理解していただくようにしている。
社内には法律や知財に詳しい人材がいないため、契約書や知財等に関する悩みについては弁理士や弁護士に相談する他ないが、それもそう簡単には進まない。具体的には、弁護士が必ずしもAI等の最新テクノロジーに精通している訳ではないため、「AIとは」といった初歩的な説明から始める必要があり、多くの時間を要することとなる。
スタートアップが得た学び
- 信頼できる弁理士や弁護士を作り、相談しやすい環境を整えることが重要
- スピード重視かつ最小限の人員で経営するスタートアップにとって、知財や契約書に関する専門知識を社内に常時持っておくことは困難である。しかし、知財やノウハウは多くのスタートアップにとって、競争力や成長性の源泉であり、疎かにする訳にはいかない
- 自社の技術を守っていくためには、外部の弁理士や弁護士に必要なタイミングですぐに相談できる体制を構築することが重要である。スタートアップが手掛ける新しい技術や事業は、弁理士や弁護士にとって理解するのに時間がかかるものであり、必要が生じてから探しても間に合わない場合が多い。だからこそ、前もって探索して、信頼できる専門家のアテを作っておくことが重要だと考えられる。
ハードウェアの製造を誰が担うべきかでユーザーと意見が割れる
「TESRAY」は、ユーザー企業との実証実験を繰り返した結果、ついに実際の製造ラインに導入できるレベルに到達した。
しかし、実証実験に参加したユーザー企業と本格的な導入に向けて交渉を進めるなかで、「ハードウェアの製造を誰の事業として実施するか」について意見が大きく分かれる展開に。
ロビット課題・転機 2.2
- 段階
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- 原理試作
- 量産化設計・試作
- 量産・量産後
- その他
- 悩み
-
- 考え方
- 探し方
- 付き合い方
- その他
ロビットが開発する外観検査自動化装置「TESRAY」は、ユーザー企業との実証実験を繰り返した結果、ついに実際の製造ラインに導入できるレベルに到達した。
しかし、実証実験に参加したユーザー企業と本格的な導入に向けて交渉を進めるなかで、次の課題が持ち上がってきた。それはつまり、ハードウェアの製造を誰の事業として実施するか、ということである。
ユーザー側から見ると、スタートアップであるロビットが製造したハードウェアを購入して製造ラインに組み込むことは、ある意味でハードルが高い(製造ラインは十年単位で用いるため、その間スタートアップであるロビットが保守やメンテナンスまで面倒を見てくれるという確信が持てない)。そのため、ロビットのAIとその他の技術のライセンスを受け、ハードウェアは他の設備メーカーに作らせたい、というのがユーザー側の本音のようだ。
一方で、ロビットの製品の強みはAIとハードウェアの融合領域にあるため、ハードウェアだけを切り出して製造を任せられる適切なパートナーを見つけることが難しいという現実もある。AIのことも十分に理解したハードウェアメーカーでなければ、実際の協業に際してトラブルが発生しかねず、その責任は元請けであるロビットが負うこととなる。したがって結果として、ハードウェアの製造を切り出すことには慎重にならざるを得ない。
このような両者の立場の違いが交渉の中で明らかになっており、ロビットとしては「TESRAY」の本格的な普及を目前に、難しい課題に直面した。
スタートアップが得た学び
- 長期間の使用が前提となるハードウェアは保守・メンテナンス体制がネックになりやすい
- BtoCの事業(目覚ましカーテンmornin’)で経験を積んだロビットにとって、ハードウェアを開発・製造して顧客に販売するところまでは、大きな困難を感じることなく対応可能である。一方で、BtoBの、しかも特に長期間にわたって安定的な稼働が求められる製造設備の分野に関しては、販売後の保守やメンテナンスの体制を強く求められ、これはロビットにとって初めての体験であった。
- スタートアップが、自社で全てのハードウェアの保守・メンテナンスを長年にわたって実施していくことは容易ではなく、これらを得意とする既存企業との連携が求められる。